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おいらは山の子

おいらは山の子
オラは小さい頃、人里離れた山の中に住んでいた。
開墾の畑があって、小屋みたいな家だった。
電気などなくて、ランプの生活だった。
ストーブの傍に丸いテーブルがあるだけで、
鍋も茶碗も、そこに載せていた。
壁はなく、板に新聞紙を貼っていただけだった。
冬の風の強い日には、隙間から雪が吹き込んで、
布団を被った上に雪が乗っかっていた。
周りに他の家などないから、誰もいない。
誰も来ない。いつも一人ぼっちだった。
小屋に赤ベコ飼っていたので、遊びに飽きると
そこに行って草をやったりした。
遊びは、ノコギリで木を切り、ナタで薪を割る事だ。
カマで草刈ってたら指を切って、血がだらだらと流れてきて
大声で泣き叫んだ。
畑の向こうに、里に通じる道がある。
誰か来ないかと、良く眺めていた。
ある時、誰かがゆっくりと歩いてくる。
「誰か来たーっ」
オラは、喜んで走って行く。
「ジ、ジーだ、ジーちゃーん」
爺さんに、まとわりついて手を取る。
「たっしゃでいたか、よしよし」
爺さんは、やさしく頭をなでてくれる。
米を持ってきてくれた。
その日は、久しぶりに米の飯を焚いた。
「うまい、うまい」
と、言ってお椀を舐めて父母も笑った。
婆さんがやってきた。
同じようにオラは走って迎えに行った。
大きなリンゴを取り出し、爪で傷を付けてパカッと割った。
「ほーれ、食え」
オラは、汁を口から垂らしながら食った。
婆ちゃんは、アメ玉もくれた。
口に入れたら、ほっぺが膨れた。
あれから数十年、爺さんも婆ちゃんもとっくにあの世に逝った。
親父も3年前に逝った。
暮らした家は、今はない。
オラは、この地を歩く。
何もない、誰も来ない。
荒れた畑の周りを山の木々が囲んでいる。
あの当時と変わらない空の青さ。
山に向かって、大きな声で叫ぶ。
「おーい、おーい」
吸い込まれていく。
この地には思い出が詰まっている。
優しさに包まれる地なのだ。
オラは山の子なのだ。
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